第1 思考手順
1 読む順番
①まず起訴状から
事実経過とか被告人からの事情聴取メモとかは飛ばす。
起訴状で,検察官がどういう事件だと主張しているのか,土俵を確認する。
→被告人は誰で何歳でどういう人か,いつどこで何をしたのか,被害者は誰かなど
②証明予定事実記載書,追加証明予定事実記載書(又は証明予定事実記載書2)
特に,追加証明予定事実記載書(最新版のやつ)が最重要である。
これの冒頭に,争いのある要証事実が挙げられていて,その下で列記されている個々の項目が,これから弾劾する直接証拠や間接事実である。
冒頭で要証事実につき「~の事実は,●●供述により証明するほか,以下の事実により証明する」というような記載があれば,検察官は直接証拠+間接事実により立証しようとしているとわかる。
→ここで証拠構造を把握。図を書く。
③ケースセオリーなるものの把握
公訴事実と証拠構造が把握できたら,事実経過,被告人からの事情聴取メモを読んでいく。事情聴取メモに記載された被告人の事件全体に関する主張が,いわゆるケースセオリーの中の「事件のストーリー」に当たる。
事情聴取メモでは,追加証明予定事実記載書に挙げられた間接事実との関係で被告人がどのようなことを主張しているかも把握する必要がある。間接事実の存在を否認した上で理由を述べているもの,間接事実を認めた上で反対仮説を述べている(推認力を争っている)ものなど,きちんと把握して,その通りに起案する。検察官が主張する間接事実についての証拠に対して合理的な反論を加えているのであれば,これはいわゆる「証拠のストーリー」に当たる。
基本的には,想定弁論では、個々の間接事実等の検察官立証を弾劾する過程で証拠のストーリーを述べ,その後のケースセオリーを主張する場面で事件のストーリーを述べるということになる。
上記を念頭に,記録を一旦読み進め,どの証拠をどの直接証拠や間接事実の弾劾に使うのかを位置付けていく。
2 検察官立証の弾劾方法
⑴ 起案の全体像
刑弁起案では,①全体としての結論,②検察官立証の弾劾,③ケースセオリーの主張,④まとめの順に書く。分量として,②検察官立証の弾劾に多くの紙幅を割き,ケースセオリーは1ページ程度。検察官立証の弾劾が起案においては重要。
⑵ 書き方
検察官立証の弾劾では,まず結論を書く。
“争点となる要証事実につき,直接証拠は信用できず,間接証拠は信用できないから間接事実の存在は立証できていないor間接事実は認められるものの推認力が弱い”などと簡潔に書く。
続いて,要証事実についての検察官立証を,追加証明予定事実記載書に対応する形で弾劾していく。
⑶ 検察官立証弾劾の視点
ア 直接証拠を直接弾劾する
⇒証拠能力、証明力(信用性)
イ 間接事実の存在を争う
⇒間接証拠の証拠能力、証明力(信用性)
ウ 間接事実の要証事実に対する推認力を争う
⇒意味合い,重み。自分で反対仮説を考えると点数が跳ねるかも。
エ 別の直接証拠を提出する
オ 別の間接事実(消極的間接事実)を提出する
→要証事実を否定する事実、反対仮説を基礎づける事実。exアリバイ、真犯人
⑷ 直接証拠に対する弾劾
例えば,目撃者が,被告人が被害者を殴ったところを目撃したと供述している。
刑弁起案においては,こういった供述は100%嘘である。
目撃者のPS(検察官面前調書)は,開示証拠であるKS(警察官面前調書)から重要部分で変遷しており,変遷理由もPSに丁寧に記載されている。“警察には聞かれなかった”“警察は調書にしないと言っていた”など。この場合のように,KSには記載されていないのにPSに記載されているという変遷の場合,当該供述対象は本件の実行行為等の重要な事実であって,警察官は当然聞くはずで,目撃者の返答の有無・内容を必ず調書化するはずであり,にもかかわらず記載がないというのはKS時点で話さなかったはずだ,警察官に話したのに調書に書かれなかったという目撃者主張の変遷理由は極めて不合理だ,目撃者の供述は信用ならない,などと弾劾する。
客観的事実との不整合や知覚条件・記憶条件の悪さを指摘すべき場合もある。共犯者であるとか,誰かをかばうために罪をなすりつける等の利害関係があれば,それも指摘する。
結局,刑弁起案では目撃者供述等の直接証拠は嘘に決まっているのだから,供述の信用性を判断するポイントに当てはまる事実が絶対にあるはずであり,そこを的確に指摘すればよい。
⑸ 間接事実に対する弾劾
追加証明予定事実記載書に挙げられている間接事実について,被告人の事情聴取メモと固い証拠に基づき,①間接事実の存在を否認するか,②間接事実を認めるが推認力を争うか,それぞれ方針を立てて弾劾していく。
ア 間接事実の存在を否認する場合
被告人の事情聴取メモに本当は何が起こったかなど書いてあるから,それを念頭に,間接事実の存在を否認する理由を書く。間接証拠である供述の信用性or間接証拠である物証・非供述証拠の間接事実に対する推認力を争うことになる。
大事なのは,弁護人の立場としては,合理的な疑いを容れる余地があるということが言えれば十分だということである。
被告人が主張する「本当のこと」は,必ずしも裏付けがないかもしれない。ただ,「本当のこと」であった可能性が否定できない証拠があったり,検察官の主張する間接事実についても確実に立証できる証拠がなければ,合理的な疑いを容れない程度の立証に検察官が失敗したといえるのであり,裁判官は間接事実を認定できない。
弁護人の立場ではここまで言えればよいのである。
イ 間接事実を認めるが要証事実への推認力を争う場合
反対仮説とその成立可能性が相当程度あることを指摘する。
ここでも,被告人の事情聴取メモをベースに反対仮説を考えて書く。事情聴取メモに反対仮説の裏付けが記載されていないが,弁号証から反対仮説を裏付ける事実が立証できる場合もある。
ここも同様に,合理的な疑いを容れる余地があることまで言えれば十分であることを念頭に置いて論じるのが大事である。反対仮説を裏付ける証拠を示し,反対仮説の成立可能性が相当程度あるといえれば,間接事実の推認力が低いという結論となり,要証事実があったというには合理的な疑いを容れる余地がある。
なお,要証事実の推認を妨げる消極的間接事実を主張する,という争い方もあるが,起案では出ない(と思われる)。
アリバイなどが消極的間接事実に当たるが,立証できれば決定的すぎて他の間接事実の検討が十分にされないこととなるので,出題しにくいのではないか。
ウ 間接事実の総合考慮
間接事実に対する弾劾の項目では,最後に,上記イの間接事実(認められるが推認力が低いもの)を総合しても要証事実が推認されないことを書く。検察起案と同様である。
3 被告人供述の信用性
被告人供述が信用できることに言及することを忘れない。
4 情状について
プラクティス刑事裁判35ページ以下のステップに従い検討すればよい。
なお,被告人が無罪主張しているのに情状を書くと一発アウトだと言われている。その真偽はともかく,被告人が犯罪の成立を否定しているのであれば,一見有罪っぽく見えようと,起案の結論として無罪(or特定の犯罪は不成立)に決まっている。“仮に犯罪が成立するとしても”などと予備的に情状を主張するのは無害どころか有害。
5 場面設定?は不要
想定弁論が最終弁論を想定した書面だからといって,最終弁論時点における書面であることを過度に意識する必要はない。例えば,「被告人供述(「●●氏からの事情聴取メモ」と同旨の供述が公判でなされたものと想定)によると」のように,場面設定を意識した書き方をする必要はない。単に「事情聴取メモによると」と書けばよい。時間の無駄であるし,読みにくいし,教官としてもそこが聞きたくて出題しているわけではない。
第2 起案のポイント
1 証拠構造の見分け方
証拠構造のパターンは,①直接証拠+間接事実型,②間接事実型の2つ。
・「~旨の供述があること」という見出し
・証予の横のところで供述証拠しか引っ張ってない
なら,①
2 A供述から消極的間接事実が設定できそうな場合
A供述の信用性のところで結局検討するなら、消極的間接事実は書かなくてよさそう
3 落としたらアカン
①証拠構造、②供述の欠落、変遷は落とさない!
4 略称を明記
最初に被告人○○をAというとか断ること!!
第3 答案例
第1 結論
*無罪Ver
1.Aには強盗致傷罪は成立せず,同罪については無罪である。
2.Aと,N及びIとの間に本件強盗にかかる黙示の共謀は成立しない。
*情状Ver
Aは、Vの顔を殴り転倒させ死亡させたから、傷害致死罪が成立する。
しかし、AはVから胸倉をつかまれて強く前後に揺さぶられて上記行為に及んだ。そうすると、急迫不正の侵害に対する防衛行為であり、過剰防衛が成立し、刑が軽くされるべきである。
量刑意見:懲役〇年、執行猶予が相当。
第2 結論に至る理由
1 直接証拠について
⑴ 結論
Kの「~」という供述は信用できない(直接証拠の弾劾)
⑵ 理由
ア 供述の欠落(変遷)
* 供述証拠の信用性の着眼点
A)客観的証拠・動かし難い事実の整合性
B)供述に至った経緯
C)供述内容の変遷(or欠落)
①変遷・欠落の指摘
②変遷・欠落が重要な事実であること
・捜査機関側:罪体に関する部分であるから、捜査機関側にとって重要。
例:捜査当初○○とA(W)が供述している(否認している)から、捜査機関であれば、その点を聞くはず等の具体的根拠があるとなお良し。
・供述者側:印象に残る出来事で、供述者にとって重要。
③変遷・欠落が不合理であること
・捜査官にとって重要な事実であるから、取り調べで聞かれ、供述され、録取されたはずという経験則
・供述者にとって重要な事実であれば、印象深く記憶されるはず、体験した事実であれば、供述は一貫するはずという経験則
・供述者の言い訳は不合理である旨指摘。
例;気が動転していたという言い訳は、他の部分は具体的に話しており、不合理。
④変遷・欠落の真の理由は?
・供述が変遷した真の理由を述べる。
・虚偽供述の動機がある
・捜査官の誘導、誘導による思い込み
・面どおし
D)供述内容の合理性
E)虚偽供述の動機(or誤認、記憶違い)
F)観察条件(視認・目撃)
・知覚条件:夜間で15mの距離、Vの体が重なる
→正確に見えていなかった可能性
・記憶条件:ほかに意識が向いていた、びっくりしていた
→正確な観察ができない事情があった
2 間接事実について
⑴ Aが○○したとの間接事実
ア 結論
間接証拠であるW供述は信用できず、Aが○○したとの間接事実はない(間接事実の存在を争う)。
イ 理由
間接事実の存在を争う際の着眼点
・間接事実を証明する供述の信用性を争う。
・間接事実を証明する物証・非供述証拠の推認力を争う。
⑵ Vの左手の怪我という間接事実
ア 結論
同間接事実はAがVを蹴ったという要証事実を推認させない(間接事実の存在は争わず、要証事実に対する推認力を争う)
イ 理由(客観証拠との矛盾から考えるパターンの例)
事件直後の病院に行って顔の手当てを受けた際に、診断を受けていないのは不自然である。また、受診したのは事件から4日後(甲3)であり、解体現場へ出ている(甲3)から、その時に負傷したのである。
⑶ 消極的間接事実
ア 概要
Vは直前にAを突飛ばしたとAは供述する。
イ 信用性
・A供述は信用できる
・矛盾するW供述は信用できない。
⑷ 間接事実の総合評価
・認められる間接事実は、相互に補強し合う関係にもなく、いずれも推認力が乏しいから間接事実を積み重ねても推認力が増すものでもない。
・残る間接事実は強盗の共謀がないとしても、Aの反対仮説から合理的に説明できる。
3 A供述
⑴ 概要と結論
Aは,○○である旨供述しており,Aの同供述は信用できる。
⑵ 理由
・争点に関するA供述の概要
・A供述が証拠と整合。
・A供述は一貫しており、不利な事実も述べている
第4 量刑(無罪主張ではない場合だけ例:過剰防衛の主張等)の解答例
(1)犯情
①類型と傾向→グラフを1個選ぶ
主要な犯情から被告人の犯罪行為を類型化して、その類型での量刑傾向を把握
※量刑グラフの選択の仕方
・量刑グラフの件数:サンプルが少ないとだめ
・プロセス2で検討する要素との関係:二重評価しない前提
→例えば、刑の幅を決めるところで過剰防衛の話をしたいのであれば、検索条件から過剰防衛を外すことも考えられる
・求める結論を導きやすいもの
※イメージ(私見)
・行為態様:凶器あり、結果:死亡、正当防衛
②本件犯情は悪質性が低く軽い部類→選んだグラフの中で刑の幅を決める
重要な犯情の観点から、当該犯罪が類型の中でどこに位置づけられるか、刑の幅を検討
※イメージ(私見)
・行為態様:顔面複数回蹴りつけ、続けて右手拳で1回殴打
→危険性が極めて高いとはいえない
・凶器の使用:包丁
→類型で考慮済
・意思決定に対する非難可能性:防衛行為である
→Vから先に攻撃、過剰防衛による減軽がされるべき
(2)一般情状
①有利に考慮すべき事情
②有利に考慮される理由
・前科前歴なし:犯罪傾向なく再犯可能性なし
・就労予定:再犯の可能性なし
・被害弁償:反省の態度を客観的に示す、被害者保護のために望ましい行為
・反省文等で謝罪:矯正指導を素直に受けられる態度を示すもので、再犯可能性なし
・親などの監督:更生環境が整っており、一般社会の方がよい
・検察官指摘事情への反論
・遺族感情:死亡だから当然、しかし傷害致死事案に内包されるもので、さらに不利な事情として考慮されるべきではない。
・救護しなかったのは動転していた:犯行後の情状として強い非難はできない
(3)結論
再犯可能性なく刑務所での矯正教育なくても更生可能。懲役〇年、執行猶予付きの判決を求める